康定の町で3泊した私たちは、東チベットのさらなる奥地に向けて旅立ちます。
その移動時間はなんと「9時間」以上!
そして途中に通過する峠道は、標高4000〜5000m近くまで達するほどの高地。
今回の記事では、長距離バスで実際に移動した時の様子を、写真付きでご紹介したいと思います。
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■目次
バスターミナルまでは徒歩で・・
さて、この日乗車する予定のバスは、早朝6時00分発。
チケットは事前に購入してあったので、気持ちにゆとりがあります。
康定から甘孜までのバスは1日1便、この朝6時00分に発車する1本だけになります。
ということは、もし満席などでこれを逃してしまった場合、当日に発車する後続便はないため、もう1泊康定にとどまり翌日の朝のバスに乗ることになります。
または、バスよりも高い料金を払って「乗合タクシー(バン)」か「チャーター」を利用するしか選択肢がありません。
なので、バスのチケットはできるだけ早めに押さえておいたほうが安心感があります。
(とは言っても、現地人は当日チケットで乗る人が大半なので、実際はそこまで心配はないと思いますが、私の場合「安心」を重視しているので、事前に購入しておきました。)
この日私たちは、余裕を見て朝5時30分にはバスターミナルに到着したかったので、4時30分には荷物をまとめてフロントに降りてきました。
そしてチェックアウト。
ホテルからバスターミナルまでの距離は約2キロ前後。
もちろん、こんな時間に路線バスは走っていないので、移動手段はタクシーか徒歩になります。
外気温は氷点下8℃。空気がシュッとまとまっていて、外に出ると顔が引き締まるのが分かります。
大きな荷物もあったので、バスターミナルまではタクシーを利用することにした私たち。
ホテル前でタクシーを数分待ちます。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・こない・・。」
時折窓から声をかけてくるのは一般車。いわゆる白タクですね。
普通の「おじさん」系白タクなら使ってもよかったのですが、運転手は「10代!?」とも見えるかなり若くてチャラそうな人・・。しかも助手席にはその友人と思わしき人が乗っていまして・・・。車内をチラッとのぞいたら明らかに「飲み帰り」の様子。
知らない町で、言葉も通じないのに、そんな車にホイホイと乗る勇気はありません。(もしかしたらいい人かもしれませんが)
なので、仕方なく私たちが選んだ方法は・・
「徒歩」
マイナス8度の極寒の町を、スーツケースを転がし、カメラバッグを背負いながら、2キロ離れたバスターミナルに向けてトボトボと歩きます。
「こんなことなら、タクシーの予約しておけばよかった・・・。」
なので、早朝のバスに乗る人で、バスターミナルから離れたホテルに泊まる場合は、事前に移動手段を考えておくことをオススメします。
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バスターミナルで「甘孜」行きバスを探す
5時10分。
市街地のホテルからゆっくり歩いて約40分。ようやくバスターミナルに到着した私たち。
ターミナル前の路上には、これから東チベット各地へ向かうバスの大行列。
入り口の門が開くのは5時20分。
なので、乗客もバスも開門されるのをしばらく待つことになります。
入り口の外側にある売店はオープンしているので、お菓子と水を購入して時間をつぶします。
買い物が終わり入り口に戻ると、ちょうどドアが解錠されたところ。20人ほどいた乗客たちが一斉に中に入ります。
気温はかなり低いはずなのに、そこまでの寒さを感じないのは、日本で買ってきた裏起毛シャツとカイロのおかげかな?
ターミナルの入り口では例によって荷物検査があります。
危険物(刃物やオイルなどの可燃物)と液体(開封済みのもの)を念入りにチェックされますので、事前にまとめておいたほうがスムーズです。液体は、使用法を説明できれば持ち込み可能です。
改札を抜けて、ターミナルの構内に入ると、各地に向かうバスがズラーっと並んでいるので、自分の乗るバスを探します。
手前だけではなく奥の方にもいるので、バスが見つからない場合はチケットを係員に見せて聞いてみましょう。
おっ、すぐに見つかりました。
行き先はフロントガラスに貼ってあり、全て漢字で書かれているので、日本人であればすぐに分かるかと思います。
どうやら成都ー康定で乗車したVIPバスではなくて、普通の2X2シートのバスのようです。残念。
今回持ち歩いているスーツケース2点は、床下にあるトランクルームに預けます。
この時、個数やサイズ、重さは特に測っていなかったので、いわゆる「普通の」旅行荷物であれば問題なく積載可能です。
紛失や破損が心配なので、当然カメラバッグと貴重品は車内に持ち込みました。
またウェットティッシュや、タオル、飲み物、食べ物など車内で必要になるグッズは忘れずに車内に持ち込みましょう。
とりあえず乗車。
・・・ここで気になることが1つ。
前の座席リクライニングが壊れていて、最初から全開に倒れています・・。しかも私の後ろの人は荷物がかなり多くて、全く座席を倒せません。
これは参ったな〜。
5時45分。
甘孜に向かう乗客たちがぞろぞろと乗車してきます。
チケット窓口の方を見ると、結構な人だかりができていたので、慣れている現地人は「当日」チケットを購入しているようです。
出発まであと10分、ここでもう一度トイレを済ませておきます。(特に冬場は冷えるので「必ず」トイレを済ませてから乗車しましょう!このあと大変なことに・・)
しばらくすると運転手が乗り込んできて、ようやくエアコンが点きます。
そして定刻通りの6時00分、バスは甘孜に向けてゆっくりと動き出しました。
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標高4000mの峠道でトイレとの戦い
康定の町を出発すると、バスはすぐに上り坂の峠道に差し掛かります。
左側に康定の夜景を眺めながら、ぐんぐんと標高を上げていくのがわかります。
道路は完全にアイスバーンの状態。
タイヤに巻いたチェーンがガツガツと響き、時速40キロほどで慎重に走ります。
「これだと到着が大幅に遅れるかもな・・。」とこの時は思っていました。(途中からは雪がなくなって、結果ほぼ時間通りに運行されました!)
町を出てからしばらくすると、街灯は完全になくなり辺りは闇に包まれます。この時期の東チベットの日の出は、だいたい朝8時ごろ。
夜明けまであと2時間近くあります。
気温が低いので、バスの窓ガラスは凍りつき、外もよく見えません。
そして前席のリクライニングが壊れているので、前に座っているお姉さんの体重が、膝の上に乗せたバッグを通して私のお腹に全て乗っかっている状態・・。
そのままあと9時間も乗車しなくてはいけないので、かなりきつい修行です。
GPSアプリを見てみると、標高4278m!
さっきから4200〜4500m付近を行ったり来たりしています。すごいところを走っているな・・。
バスのヘッドライトだけが、アイスバーンの道を白く照らします。
しばらくすると、後ろの方から「おえ〜」が聞こえてきました。そういえば中国人やチベット人は、乗り物に弱い人が多いという記事をどこかで読んだのを思い出しました。
そんなことを考えていると、だんだんトイレに行きたくなってくる私。
乗車前にはトイレを済ませ、あまり水分を取らないようにしていたのですが・・。
どうやら「冷え」からくる尿意のようでして、さらに前席の背もたれによる圧迫、タイヤチェーンの定期的な振動が全て悪い方向に加担しているようです。
「我慢、我慢・・・。」
「少ししたらトイレ休憩があるはずだ!」
そう自分を励ましながら約30分が経ったころでしょうか。
そろそろヤバイ・・と自覚してきました。そして(もう我慢できない!!!)とばかりに、運転手に一言。
「ツースォー!」
勇気を振り絞り、大声で叫んだところ・・
他の乗客が運転手と中国語でなにやら話しています。
そしてその人が翻訳アプリに打ち込んで持ってきてくれた内容は・・
「アイスバーンの峠道だから停車できない」
と・・。
私もクルマに乗る人で、雪道にも慣れているので、一瞬で意味を理解しました。
アイスバーンの上り坂で下手に停車してしまうと、タイヤが滑って発車できなくなる恐れがあるのです。
そして、その乗客が運転手から預かった1枚のビニール袋を手渡してきました。
つまり、これにしろと・・?
ジェスチャーで聞いてみると、真面目な顔でうなずく乗客。
なるほど、中国の田舎ではドアや壁のないトイレも普通だし、田舎のバスの中ではビニールにすることになっているのか!?
すると、他の乗客が2名ほど「俺にもくれ〜」みたいな感じでビニールをもらっていきました。そして席に戻って、下を向きながらごそごそやって、終わったら通路にあるゴミバケツに放り込んでいます。
「・・・よし!俺もチャレンジするぞ!」
えーと、腰をちょっと浮かせて、チャックを開けて・・ビニールを・・
しかしここは峠道のど真ん中。バスが左右に揺れてなかなかうまくいきません。そしてついに・・と、あとはご想像にお任せします(笑)
休憩1回目はマイナス20℃の地で
7時53分。
東側の空がだんだん明るくなり、それまでは何も見えなかった車窓に山のシルエットが映ります。
だんだんと青みを増してくる空。
8時10分、夜明け。
山の稜線がはっきりと見えてきました。
窓は相変わらず凍りついたまま。
一体外はマイナス何度なのでしょうか?
8時13分。
康定を発車してから約2時間。ここで10分間の休憩タイムです。
バスを降りて、チベットの空気を吸おうかと思ったら、鼻の中がシャリシャリしています。
そして空気を吸ったら、喉の奥がヒリヒリ。耳も痛い・・。
バスの乗客と、休憩所の人の服装が明らかに違います。
休憩所の人は、耳まで覆ったコートを着用しています!
温度計を見ると・・なんと「ー20℃」!!
道の雪と氷が無くなったので、タイヤチャーンを外す運転手さん。おそらく気温が低すぎて、雪が積もる前に風で飛んだのでしょう。
こんな朝は焚火で暖まりましょう。チェーンを外し終わった運転手と他数人が暖を取っています。
狭いバスに乗ってきた人にとっては、体を動かせる束の間の休息。
私はとりあえず「トイレ」に行きました(笑)もちろんドアのない「ニーハオトイレ」です。手洗いの水は凍っているので出ません。
車内に戻ると、なぜか「犬」が乗車していました!
前に座るお姉さんが連れてきたようですね。(他の乗客の話では、このお姉さんはチベット人の歌手らしいです。)
8時30分。
バスは再び甘孜に向かって走り出しました。
東チベット、絶景バスの旅
日が完全に昇ると、それまでは見えなかった景色がはっきりと見えます。
窓が凍っているので、爪で削ってみると・・・。
完全に凍結した川と、枯れ草の草原が見えてきました!
きっと春になれば、生命のみなぎる緑色の大草原に変身するのでしょう。
途中の河原には、チベット文字が書かれた石が無数に転がっています。
神様も1つ1つ丁寧に掘られているようで、こんな景色がずっと続きます。
山肌にも大きなチベット文字が書かれています。
民家もチベット式建築の一軒家。
テーマカラーのえんじ色が朝日に輝いています。
どこかの町には、大きなマニ車がある寺院。
道を渡るヤクの群。
チベットには雪がよく似合う!
この時期に来て良かった!と思える瞬間です。
この辺りは「塔公」の町。
美しい村ということで、チベット好きな人には有名な場所らしいです。
バスがしばらく進んでも、河原にはチベット文字と神様がびっしりと並んでいます。
どこまでも続きます。
ーーー
11時44分。
窓から差し込む朝日に包まれて、少しうとうとしていたら、車内がざわざわとして乗客が降りて行きます。
「道孚」という町に到着したようで、2回目の休憩。
ここでは約30分の休憩になり、敷地内にはトイレのほか軽食コーナーも用意されています。
1人25元で、おかずを3つ選べるというスタイル。
トイレが心配な私はパスしました。
奥の売店でカップラーメンも売っているので、安く済ませたい人はそれでもいいかも。お湯は売店でもらえるようです。
私が住んでいるタイの地方空港よりも広くて綺麗な休憩所。
しかし、ここは利用者なんて誰もいないのに、もったいない気がしますが・・。
12時13分、発車。
空がかなり近く見えます。標高3800m、富士山の山頂よりも高い場所をバスは走り続けます。
川の流れがある所は凍らずに残っていますね。流れがゆっくりな所は川の表面だけが凍っています。
13時43分、「炉霍(ルーフォ)」到着。
ここで10人ほどの乗客が途中下車しました。
前に座っていたお姉さんも、荷物をまとめてここで下車!
やったー!これでようやく重さから解放されます・・。長かったー・・。
約10分間停車するので、トイレに行きたい人は済ませておきましょう。
甘孜に向けてラストスパート
ここから甘孜までは約100キロ弱。
バスは最後の峠を越えるべく、低いエンジン音を唸らせます。
14時48分、窓の外には、この日一番の絶景が!まるでジオラマのような世界。
標高4000mにある湖。半分ほど凍っているのがわかります。
遠くには氷河となった白い山が連なります。
素晴らしい・・!
丘の上には黒いヤクがたくさん。
枯れ草を美味しそうに食べています。
14時58分、バスはついに最後の峠に差し掛かりました。
標高4600m。180度のきついヘアピンカーブが続きます。
この峠を越えたら、あとはずっと下り坂。
その間も絶景が続きます。
15時30分、車窓には民家がチラチラと見えて来ました。そしてだんだんと車が増えてきて、車内はそろそろ終点に到着する雰囲気を見せます。
そして15時42分。
康定を出発してから9時間42分。
バスは「甘孜康北汽车站(バスターミナル)」にゆっくりと入構しました。
歌手の新沼謙治似の運転手さんともここでお別れ。
降りるときに笑いながら「お土産だ!」みたいに言われて渡された新しい「ビニール袋」!
他の乗客たちもケラケラ笑っています(笑)
全く、中国やチベットは冗談が好きな人が多いなあ・・。
この時、運転手さんオススメの中華麺食堂を聞いたので、このあと早速行ってみたいと思います!
まとめ
今回バスに実際に乗車してわかったことをいくつかまとめました。
思ったより運転は「丁寧」です。制限速度はきちんと守っていましたし、急ハンドルや急ブレーキなどもありませんでした。
過去の記事を参考にしてみると「運転が荒い」「怖い」という内容をよく見かけますが、最近はそういうこともほぼ無くなったようです。
ただし、逆走しての追い越しは多々あります。クラクションもよく鳴らしますので、日本のバスと比較したら荒いと感じると思います・・!
チケットは2日前から販売されるので、スケジュールがタイトな人は事前に入手しておいたほうが安心です。地元民は当日購入の人が多いようですが、念のため・・。
また、運行中の休憩は2〜3時間に1回の割合です。
康定から甘孜にバスで移動する際の参考にしていただければ幸いです。
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