雲南省の昆明から、四川省の成都まで約1200キロ。
飛行機ならばわずか1時間20分程度の距離ですが、寝台列車だと夕方発車して、到着は翌日のお昼すぎ。実に19時間もの間列車に揺られることになります。
今回私たちは(主に私が勝手に決めましたが・・)、バンコクから東チベットに向かうルートを計画する際、成都行きのフライトではなくて、昆明から成都までの区間はわざわざ鉄道を選んでいます。
飛行機でも成都まで行けるのに、なぜそんな面倒なルートを選んだのでしょう・・?
今回の記事は、寝台列車に乗車した時の様子、そして私が鉄道旅行をやめられない理由についてお話ししたいと思います。
前回の記事はこちら
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■目次
鉄道旅行のすすめ
飛行機だと味気ない・・。
バスだと風情がない・・。
もともと私が鉄道好きというのもありますが、日本でもタイでも、またまた中国でも、鉄道が走っている区間を移動するのであれば、迷わず鉄道を選びます。(自分の車で行けるのであれば、荷物の関係で車優先ですが)
人はなぜ、北に向かうと旅情を誘われるのだろうか・・?
私は日本で言えば、冬の東北本線が好きでした。
2000年ごろまで走っていた夜行列車の話ですが、上野駅を発車してしばらくたち、車内が落ち着いた頃には車窓からビルが消え、周りには畑ばかりが広がります。
1時間、2時間と走り続け、宇都宮を過ぎた頃、外はもう真っ暗。
その後郡山辺りを通過する頃には、暗闇の中、水銀灯に照らされた真っ白な雪がコントラストを放ちます。
こんなシチュエーションが好きで、何度かお世話になった寝台列車は、日本からはほとんど姿を消してしまいました。
しかし、私が住んでいるタイ、そして中国は未だ現役!
新型車両も続々登場するなど、衰退する兆しすらありません。
タイだとバンコクからチェンマイ行きや、南部方面行き、イサーン地方行きが走っていますが、四季のない国なので、いまいち風情に欠けます。
そこで中国。
都市部は近代化され、東京やバンコクなど世界の首都となんら変わらない姿になってしまっていますが、山間の集落や町は、今でも当時の姿のまま残っています。
タイムスリップして、ノスタルジックな気分と、これから北に向かう旅情を味わいたい・・。
そんな希望を叶えてくれるのが中国の寝台列車。
これが、今回の旅で成都に直行せず、わざわざ昆明で飛行機を降りた理由です。
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昆明駅17:39分発
16時30分。
私たちは、成都行きの列車に乗車するため、昆明駅の構内にいました。
預けた荷物を引き取り、外改札を通り抜け、これからの長旅に備えて食料や飲み物などの買い出しを済ませます。
そして17時ごろ。
買い物を済ませた私たちは、成都行きK146次列車が発車する中改札の前にいます。
中国の駅は外改札と中改札があり、自分が乗車する列車のホーム以外には降りることができません。また、列車が発車する10〜20分前にならないと、ホームに進むことができないのです。
17時15分。
中国語でアナウンスがあり、ホームへ続く中改札が開きました。内容は全く聞き取れません(笑)
ホームに降りる通路は「階段」のみ・・・。
エスカレーターなどというものは設置されておらず、重いスーツケースを必死に担いでホームに降りた私が目にしたのは、濃いグリーンに塗られた車体に、鮮やかな黄色の帯が入った列車。
側面には「昆明ー成都」と書かれたサボが旅情を誘います。
私たちの乗る車両は11号車。
ここから3両ほど前方にあるようです。
見つけました!
車体には「軟臥車」と書かれています。
各車両のドア前には担当車掌が立っていて、一人一人乗車券の確認をしています。
夕方の西陽が差し込む車内。
かつての上野駅発車前の札幌行き寝台特急「北斗星」を彷彿とさせます。
車内は結構清潔に保たれていて、寝具も含めて嫌な匂いも全くしませんでした。
反対側のホームにも寝台列車が停車中で、高速鉄道の新区間が次々に開通している中国ですが、寝台列車もまだまだ現役だということを思わせます。
あの列車はどこに向かうのでしょうか。
お隣にも同じ色の列車が。やや古い車種でしょうか。
ホームもよく手入れされていて、ゴミ1つ、ガム1つ落ちていない。下手したら日本より綺麗です。
日本よりも「汚す人」が多い中国なのに、この綺麗さを保っているというのはすごいこと。
そんなことに感心している間に、時計の針は17時39分。列車は定刻通りに昆明の駅をゆっくりと離れました。
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思ったよりも揺れない中国の寝台列車
昆明を発車後しばらくの間は、高層ビルやコンドミニアムなどが見えますが、10分もするとのどかな風景に変わります。
この辺りから列車は速度を上げ、スマホアプリのGPS速度計は120km/hを差しています。
「あれ、そんなにスピード出てるんだ・・?」
というのが最初の感想。
音も静かで、揺れもほとんどないから、もっとゆっくり走っているように感じます。
それもそのはず。
この区間はつい最近開通した、大理までの高速鉄道(新幹線)の線路を併用しているので、規格が良いのです。
その後車掌さんが検札に周り、切符を提示すると、写真のようなカードと交換されます。
車掌さんが、どのベッドに誰がどこまで乗車するかを把握するために、チケットを管理するのです。
そして降りる駅が近づくと、起こしに来てくれるというサービス。
その時にチケットとこのカードを再度交換するシステムになっているのです。
ちなみにタイの列車はこんなサービスありませんし、到着案内すらありません・・(笑)
車内には飲料用の給湯器が付いていて、お茶やカップ麺はここで作ることができます。
なので、中国人は列車に乗る前にカップ麺を大量に買ってくるのが常識なのです。みんな麺をズルズルとすすっています。
さあ「郷に行けば郷に従え」というのが好きな私も、中国式にチャレンジ!
さっき購入した「麻辣牛肉面」にお湯を注ぎます。
しかし、慣れないと意外と難しい。カップが軟らかいので、持つ力を入れすぎるとペコっとなってしまいまして・・。
いきなりやっちゃいました。
シーツに赤いスープをこぼしました!
明日の朝、車掌さんに怒られなければいいけど・・・。
それを見て、嫁さんと、同室になった中年の男性はゲラゲラ笑っています。
さっき買ったティッシュが早速役に立ちました!
さて、気を取り直して・・・。
カップ麺にシビレの「麻味」を足そうと思い、カルフールで購入した花椒粉をふりかけます。
これが当たりで、ちょっとひと振りするだけで何でも四川料理になる優れもの。麻辣大好きな私には無くてはならない調味料になりました。
車窓を眺めながら食べるカップ麺は、よりうまく感じる・・。
夕日に染まるころ・・
列車は山間部を貫くようにして作られた新しい線路を走行中。
新線はトンネルが多い分、カーブが少なく、乗り心地は上等です。
そのトンネルの切れ間から時折見える山岳地帯の風景。夕日が稜線の向こう側に沈もうとしています。
こんなトワイライトタイムは、寝台列車ならではの楽しみ。
窓から見えるのは、これから夜を迎えようとしている小さな村。
こんなところにも、人々の暮らしがあるのです。
反対の通路側をふと見ると、窓の外は赤く染まっていました。
列車は相変わらず120km/hをキープしながら順調に走行。
途中で新線と分かれる場所まではそのまま高規格路線を走り、そこから先は古い山間部のローカル線に入るようです。
一服したい人は、ドアの前に灰皿があるので、そちらでどうぞ。
煙が車内に流れて、若干タバコくさいのですが・・・。列車職員も含めてみんなガンガン吸っています。
そして床には灰が飛び散ります。
すると、すかさずモップを持って登場したのはさっきの車掌さん。
1〜2時間おきに自分の担当車両を清掃しているようです。
確かに、常に清掃して清潔になっていれば、汚す人も少なくなるでしょう。さっきはトイレ掃除していましたし、灰皿の中も常に空にしてくれます。
働き者だなあ・・・。
漆黒の山間部を走る列車
途中何度か停車したのち、列車の速度が落ちて山間部の旧線に入りました。
揺れ自体は先ほどとあまり変わらず。昔よりも保線技術が上がったのでしょうか。ちなみにいつも利用しているタイの寝台列車はよく揺れます・・!上下にも跳ねます!
右に左にと重力がかかり、カーブが多い山間部だということはいやが応にも分かります。それでも大して揺れず、車内は快適です。
備え付けのテーブルに置いた水筒は倒れませんでしたし、走行音もほとんどしません。
たまにブレーキがかかる時にガツンと大きく揺れて音が出ますが、それ以外はほとんど気にならないほどです。
バンコクを早朝に出発して、20時間あまり。時計は22時を指しています。いい加減、そろそろ眠くなってきました。
部屋の照明を消しベッドにもぐり、明日の予定を考えます。
「昼頃に成都に着いたら、何食べようかな・・・?」
「まずはホテルにチェックインするかな・・・?」
「やっぱり麻婆豆腐かな・・?」
「担々麺もいいな・・・」
「・・・・」
「・・・」
途中駅に停車で目を覚ます
「ガタン!」
大きな衝撃があり、ふと目を覚まします。
眠い目をこすりながら窓の外を見ると、少し大きめの駅に停車中のようです。
駅名は「攀枝花駅」と書かれています。
雲南省から四川省に入って最初の街。
攀枝花市は中華人民共和国四川省に位置する地級市。金沙江が流れる。成都市と昆明市を結ぶ成昆鉄道と108国道が南北に貫く要衝の地であり、北の成都へは749km、南の昆明へは351km。攀鋼集団など、鉄鋼業を中心とした重工業、および鉱業を中心とした産業都市でもある。
ウィキペディアより引用
窓の外には、赤い電球に照らされたホーム。そこには大きな荷物を持って家路につく人たちが歩いています。年末なので、昆明に出稼ぎに行っている人が実家に帰省するのでしょうか。
窓ガラス1枚を隔てて、外側と内側では全く違う世界が広がる。
これが鉄道旅行、特に寝台列車の醍醐味ではないでしょうか。
15分ほど停車して、列車はゆっくりと動き出しました。
窓の外には攀枝花の街が見え、後ろに過ぎ去っていきます。
途中で目がさめて、過ぎ去る景色を眺めるのも寝台列車の楽しいところ。
この後、街の明かりがなくなるまで10分ほど、ずっと車窓を眺めていました。
朝起きたら四川の山奥
9時30分ごろ。
目を覚ましたら、列車は四川省山奥にある湖畔の町を走行中でした。
朝もやがかかる中、時おり小さな駅を通過します。
線路は川に沿って敷かれていて、進行方向右側には雄大な湖。
そして川沿いの町。
一服しながら、車窓を楽しみます。
ドア付近は喫煙スペースになっています。
すると・・。
車掌のお姉さんが、また掃除をしています!
朝からトイレ掃除。ほんと働き者です。
清潔な空間を提供してくれてありがとうございます!
気がつけば11時を回ったあたり。お腹がすいてきたので、嫁さんを誘って食堂車に出かけてみましょう。
私たちが乗った11号車の隣が食堂車になっていて、通路には美味しそうな香りが漂ってきます。
その香りにつられて、足を踏みいれると。。。
テーブルが整然と並んだ食堂車が!
こちらも清潔に保たれています。
日本の「北斗星」のような豪華さはありませんが、その雰囲気は十分に楽しめます。実に懐かしい。
食堂車については、後日別の記事にて改めようと思います!
成都駅13:24分着
食堂車の雰囲気を楽しんだ私たちは、個室に戻り降りる準備を始めます。
車窓には成都近郊の町が見えてきて、列車はもうすぐ終点だということが分かります。
この辺りから列車の速度が落ちて、ゆっくりと成都駅に向かって進みます。
周りにはビルやコンドミニアム、高架道路が増えてきます。
しばらくすると成都南駅の横を通りますが、この列車は通過。
そのまま成都市の西側を大きく迂回するようにして、13:24分、列車は定刻通り成都駅のホームに滑り込みました。
車内が一斉にざわざわと活気づきます。
ここで長旅を終えた旅行者、昆明から地元の成都に帰ってきた人、これから長旅に出発する私たち、数々の思いを乗せて走る寝台列車。
それらを感じることができるのが鉄道旅の醍醐味です。
時間はかかりますが、その分「移動」自体を旅の目的にできるというメリットがあります。
だからやめられないんだなぁ・・。
寝台列車から降りる乗客の荷物には、それぞれの人生が詰まっているのです。
日頃は遠く離れた街で暮らし、新年を家族と過ごすために地元成都に帰ってきたであろう人たち。
「ふぅ、やっと着いたぞ・・懐かしい我が街・成都」
行き交う人の群れからは、そんな声が聞こえてきそうです。
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昆明駅で荷物を預けるには・・・?
今回の旅の概要はこちら!
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